第六回


出航


レイス達は次の日、このあと長い間続くであろう旅に備え休んでいた。
そして夕暮れ時に出発する…予定であった。

「じゃぁこれで勘定すませてくれ。」
レイスが宿屋の主人に二日分の宿賃を払った。
「へい。確かに。」
主人がレイスから宿賃を受け取ろうとした、がそれが完遂されることはなかった。コインがレイ
スの指から主人の指へと移る一瞬前、すごい勢いで宿の扉が開いた…というより破壊されてい
た。
「レイス=ラークと名乗るものはいるか?!」
扉を破壊した「それ」が叫んだ。そして「それ」はあきらかに人間…クルト族ではなかった。フー
ドを被ってはいたものの、その中からうっすらと緑色の肌が見えていた。からだはごつく、悪臭
も物凄かった。そしてレイスは自分の名前が叫ばれたことにあっけにとられながらも、耳の片
隅でダロークの舌打ちと、素早い支持を受け取った。
「くそっ…もう嗅ぎ付けやがったか!レイス!!説明はあとだ、裏口から逃げろ!!!」
「なんだというんだ!いったい!」
レイスは悪態をつきながらも、フードの「それ」から伸びる手を紙一重で交わし、前々からダロ
ークが確認していた宿の裏口から外へ出た。
と、そこには腐りきった体臭を死んでなおも放つ「それ」の同類が二体足元にあったのと、小汚
い少年が1人いた。
「こっちだ!」
少年はそういうとレイス達に手招きしながら走り出した。しかしレイスには突然のことでまったく
わけがわからない、が、ダロークが当然のように少年のあとを追うのを見て、考える前に足が
動いていた。
「おい!さっきからわけのわからないことばかりだぞ!!すこしはオレにも説明しろ!」
レイスがダロークに向かって走りながら叫んだ。
「…話は船でしてやる。」
ダロークは短く答えた。
と、走り出してほどなく、レイスは二日間の帰郷を惜しむまもなく、裏道からレイスの故郷である
ルロラットをあとにした。レイスは走りながら、短い帰郷だったな、と思いつつも、帰省しても待
っていてくれる人などもう、だれも居ないのだから、と自分に言い聞かせた。
一行は来たほうとは明らかに逆の方向へ進んで言った。そしてその先には、小さい頃レイスが
良く遊んだ記憶のある森とそしてその先には大きな川につながるすこし大きな湖があった。
レイスたちは相当の速度で走っているはずだが、後ろからは何匹もの「それ」が追ってきた。そ
の差は縮まることなく平行して道を駆けた。
レイスはこのまま行けば、あの変なものにも追いつかれずにすむと思った、しかしその油断し
た刹那、「それ」は目の前に現れた。
『待ち伏せ』レイスの頭に言葉がよぎる。ダロークと少年は至極当然といった顔つきで「それ」
が振るう鉄の剣のようなものをかわして走り続けた。レイスはとっさのことに、いつものくせで、
剣で「それ」を二つに分裂させてしまった。「それ」のなかからは皮膚と同じ緑色の血液があふ
れ出、地面を一面緑色に染めた。しかし目の前に一時居なくなったが、レイスのとっさの行動
はあまり正しくなかった。ダロークと少年が正しかったのである。
剣を振るう一瞬、その一瞬のためにレイスの足取りはすこし緩まった。そのせいで追いつかれ
ることはなかったが、レイスは自分の判断がダロークより劣っていたことをすこし悔やんだ。

しばらくそういう状態が続くと湖が見えてきた。そして船着場には明らかに年季のはいった船が
一艘と、これまた明らかに年季のはいった老人が1人船の上にいた。
一行は少年、ダローク、レイスの順に船に飛び乗り、森と、血気だった「それ」を後ろに湖に船
を浮かべた。
「それで…あんたは?」
レイスがすこし息を切らしながら老人に聞いた。
「冒険には年老いた賢者がつきものなのじゃよ。」
老人の眼にはまだ若々しい光が宿っていた。

太陽がもう、堕ちたあとの事であった。


第七回





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