第二回


その男



レイスにはとうてい理解できない現象が目の前に繰り広げられていた。レイスはこの状況をな
んてことないと思うのは生まれてこの方家から一歩も外へ出たことのない人間だけだろうと思
った。怪我人の目の前に一人の男が立っているだけなのだから。
しかしエフバー大陸中心都市のルロラットで育ったレイスにとっては想像を絶する光景であっ
た。レイスの目の前の男は―レイスの記憶によれば―過去に”死んだはず”の男であったの
だ。剣聖ハウンリーの伝説はマシリドでは知らぬものの居らぬほど有名であった。 幾度と無く
オルティ族からのジルク大陸を護り、人々の安全の為に全人生を尽くした男…人々の間では
英雄であった。
しかし幾度も死線を掻い潜り、人々を恐怖から救った英雄も病には勝てず三年前に死んだは
ずであった。その功績から当然のように葬儀は大変壮大に行われた。その葬儀にはレイスも
招待されていた…なにしろ剣聖ハウンリーの自慢の弟子であったのだから。

「ろ、老師…どうして…?!」
レイスは喘いだ。目の前の光景にどう反応してよいものか迷った。そしてその光景は間違い無
くレイスの心を貫いた。
「どうしてもこうしてもあるか!まったく、オレ様に世話かけさせやがって…おい、今すぐこの村
を出るぞ。早く用意をしろ!」
男はレイスの記憶にあるハウンリーとは、感じが全く変わっていた。あの優しい笑顔はどこへ
行ったのやら、男は偉そうにレイスを睨みつけるばかりであった。
「…お…おまえはだれだ…」
レイスはこの言葉を内心吐きたくはなかった。せっかく自分の前に現れた愛すべき師匠の存在
を否定したくはなっかったのだ。
「……下で飯くってくるわ。」
男はレイスの問いには答えずに勝手に宿の一階へと歩を進めた。レイスは呼びとめようとした
がなかなか素早く声をかけるまえにもう姿は無くなっていた。
レイスは一人でこのとうてい理解し難い状況に悪態をついた。左手には謎の紋章とずきずきと
うずく痛みを抱え、目の前には死んだはずの師匠が現れ、夢ではないのかと疑いたくなるよう
な状況であった。しかしレイスはそのことを考えながらも、なぜかあの男―レイスはもうあの男
がハウンリーだとは思っていなかった―の言う通りに荷造りをしていた。

レイスが荷造りを済ませ一階に下りていくと、男は食堂のテーブルの前でずいぶんと満足した
顔で座っていた。みると男の前には山盛りの皿が空けられていた。
「なっ…それ全部食ったのか…?!」
レイスは男を問いただすことを忘れ驚いてしまった。
「おう…おばちゃん、お代り」
男はなおも食べようとする。レイスは少しの間あっけにとられていたがすぐに自分の目的を思
い出した。
「お、おい、おまえは一体誰なんだよ?!そんな姿しても騙されないぞ。」
レイスは固い決意を胸に男にやっとのことでその言葉を叩きつけた。
「お前が察した通りオレはハウンリーとやらではない。まぁ体はそいつのだけどな。」
レイスはまた混乱の中に突き落とされた。




第三回





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